ある無名の惑星に彩りはなく、そこに住む者たちも知識を失っていた。彼らは自分たちが何であるか、何をすべきかも分からず、ただ無限に広がる灰色の大地を彷徨っていた。彼らは声も持たず、言葉で意思を伝えることができなかったが、全ての生命が共有する古代からの記憶に導かれるように同じ目的地を目指していた。
一方、それを見下ろす者が一人いた。この存在もまた彼らと同じく声を持たなかったが、すべての生命に触れ、彼らの遺伝的記憶を読む力を持っていた。この知覚する者は、かつて彼らが持っていた可能性と、失われた文明の煌めきに心を痛める。
日々は続き、灰色の大地を歩む足音だけが時間を刻む。そして、とうとう彼らは目的地に辿り着く。そこは巨大な宇宙の遺伝子庫─過去のすべての生命のデータが保存されている場所であった。彼らは何故かその場所に引き寄せられ、一人また一人と遺伝子庫に吸い込まれていった。
知覚する者は初めて自問する。これは彼らが自ら選んだ結果なのか、それとも遺伝子が指し示す運命なのか。彼らの記憶は失われていく一方で、新たな命が遺伝子庫から生まれ出ることもなかった。ただ、灰色の大地が少しずつ緑を取り戻し始めていた。
風が吹き、沈黙が、かつての喧騒を思い出させる。知覚する者は、彼らが一つ一つ遺伝子庫に消えていく様を静かに見守っていた。そして、最後の一人が遺伝子庫に吸い込まれるとき、知覚する者は何かを悟ったように静かにその場に立ち尽くす。
やがて、その惑星には新たな生命の気配が漂ってきた。遺伝子庫はその役割を終え、閉じられる準備が整いつつあった。新しい生命たちは別の場所からやってきたのかもしれないが、遺伝子の記憶を持たない彼らは、同じ過ちを繰り返さない自由を持っていた。
風がまた吹き、遺伝子庫の扉が閉じる音が響く。知覚する者は、とうとう自分の役割も終わったと知り、最後の一人として遺伝子庫に向かい、自らのすべてを海の中に解き放つ。何もかもが融解し始め、遺伝的な選択と環境の因果が輪を描いていた。
灰色の大地は完全に緑へと変わり、新しい生命が息吹を感じ取る。彼らは未来へ向かって歩き始める。遺伝子の海は静かにその役割を終え、新たな物語が始まる準備を整えていた。
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