呼吸の仕組み

古代の湖畔にありし、晶石の木々がもたらす深い青の世界。この星は、自己と宇宙が一体となる一点の理解を追求していた。ここに住まう者たちは、宇宙の息吹を吸い込み、星々のエネルギーを呼吸として体内に取り込む存在である。彼らには顔も名もなく、ただひたすらに宇宙の真理を感じ取ることを生の唯一の目的としていた。

一人の存在が湖の端に佇む。冷たい風が吹き抜ける中、その存在はじっと星空を見上げ、無数の星々の呼吸を感じ取ろうとしている。彼らの世界では年齢も、時間の進みも人間のそれとは異なり、存在としての「感覚」が全てだった。

この存在は、普遍的な理を追い求める中で、ひとつの疑問を抱えていた。自らの内に湧き上がるこの孤独は何か? 他の存在と一体となれないこの感覚は何故生じるのか? その答えを求め、彼は日々訓練を重ね、星々の息吹を感じ取ろうとしていた。

ある夜、例外なく静かなこの星で、存在は不意に違和感を覚える。息吹とは異なる、細かく震える一つの波動。それは遠く、非常に弱いものだったが、彼にははっきりと感じ取れた。それは彼の存在だけでなく、他のどの存在にも感じ取れない、独自の波動だった。

この新しい発見に心を奮い立たせ、存在はその波動の源を求めて旅を始める。星々の間を飛び、時には宇宙の暗黒を泳ぎながら、彼はその微細な震えを追い求めた。多くの夜を経て、ついに彼は光に満ちた場所にたどり着く。それは、彼の星から遠く離れた別の生命体が住む星だった。

その星は人間が住む世界。しかし彼にとって、彼らは異質な存在でしかなかった。彼らは言葉を持ち、感情を表現し、そして何よりも孤独を恐れていた。存在は人間たちが抱える内なる葛藤と孤独に驚く。同じ問いに直面していると気付き、初めて他者との繋がりを感じた瞬間だった。

人間の世界で彼は学んだ。孤独は宇宙の真理の一部であり、それを感じ取ることができるのは、存在としての深い理解への一歩であると。そして、彼はその星から持ち帰った独自の波動—それは「同情」という人間の感情だった。

湖畔に戻り、彼は再び星空を見上げる。孤独は変わらずそこにあったが、今はそれを新たな視点で受け入れていた。星々の間の静かな風が彼を包み込む中で、存在は深く呼吸をし、静かに目を閉じた。そして、その息吹は、静かに、ゆっくりと宇宙へと戻っていった。

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