朝露に満たされた草原で目醒めた。視界が開けると同時に紫色の天が広がり、まるで無限の瞳のように私を見下ろしていた。私は名もなき存在、彼らが呼ぶには、ただの“観察者”。本能的に私はここが地球ではないことを理解していた。
この星の住人たちは、体色を変化させる能力を持っていた。彼らは感情や環境に応じて色を変え、その色でコミュニケーションを取る。私が初めて出会った住人は水色に輝いており、それはこの星では幸福を意味する色だった。
しかし、住人たちの中には、一日中灰色や黒色を纏う者もいた。彼らは”孤と”と呼ばれ、その存在は周囲から避けられ、疎外されていた。孤とたちは周りと異なる色を持つことで、進化的な葛藤を抱えていた。彼らは幸福の色を求め、それでも自然に染められない自分自身に苦しんでいるのだ。
私は特に一人の孤と、”灰影”に注意を引かれた。灰影は他の孤とと妙に異なり、彼の内には一筋の光が隠れているように感じられた。彼の隣に居ると、私の周囲の草も次第に色を失い、灰色が拡がっていく。灰影は私が色を持たないことを不思議に思っているようだった。
日々、私は灰影と過ごす時間が長くなった。彼の身体から時折現れる紫の斑点が、彼の内に秘められた感情の深さを物語っていた。紫はこの星で最も珍しい色で、深い悲しみと深い愛情を同時に表す色だった。
物語は変転する。星の祭りの日、住人たちは一年で最も鮮やかな色を放つ。灰影は通常の孤とたちと一緒に灰色の隅で静かにしているはずだったが、彼はそこにはいなかった。彼は祭りの中心に立ち、体から紫の光を放っていた。彼の色が変わるのを見た住人たちは驚愕し、恐怖を感じた。
灰影の周囲は静寂に包まれた。私が彼の隣に立つと、彼の体から発せられる紫の光が私にも触れ、私の存在が彼の光を強めたように感じた。紫の光は徐々に静かに褪せていき、祭りの喧騒がまた始まった。
祭りが終わると、灰影は再び孤ととしての生を受け入れることになった。しかしその夜、私にも変化が訪れた。灰影の光の一部が私の中に留まり、私自身がこの星の一部となっていた。私の観察が終わる時、私の中に残された紫の光は、静かにこの星の存在の一部として融合していく。
その紫のかけらが、時を超えて、新たな観察者へと受け継がれるだろう。その光が示すのは、孤独さえもがこの宇宙の愛と悲しみを内包しているという真実だ。そして、私はただ静かにその証として存在する。
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