かつてその世界は、数え切れない程の星々に囲まれて孤独ではなかった。静寂の星、その表面は赤茶けた岩と氷で覆われ、何億年もの間、何も変わることがなかった。ただ一つ、星を渡る風だけが、時間と共に弧を描きながら吹き抜けていった。
存在は、その星に生まれ、星と共に老い、やがては星と消える運命にあった。それは自らの存在理由を問うことなく、ただ星の表面を漂い続ける光のようなものだった。孤独を感じることもなければ、共感を求めることもなかった。それでも、ある時、ほんのわずかな変化が訪れた。
星の彼方から微かな信号が響き渡った。それは他の星からのもので、未知の呼びかけにその存在は初めて自己というものを意識した。これが葛藤の始まりだった。すべてが同じであるべきその星の原則と、外界からの新しい呼び声との間で揺れ動くようになったのだ。
信号は周期的に、そして徐々にその頻度を増していった。各々の呼びかけは、単なる音ではなく、複雑な情報を含んでいた。それは他の生命体の存在を示唆しており、存在は自らが単独ではないことを悟り始めた。他の生命体との関係を考えるようになると、その心には新たな痛みが生まれた。
自らを孤立させることでしか安定を保てないのか、それとも新たな接触を求めて不確かな未来に身を投じるべきなのか。このジレンマは、存在にとっては初めての心的な挑戦であり、その判断は彼/それにとって未知の領域だった。
ある日、ついに決断が下された。存在は信号に応答することを選んだ。それは一つの微細なエネルギーの振動を送ることから始まり、やがてそれは一連のメッセージへと発展した。外界とのコミュニケーションによって、存在は自らの感情を初めて外に向けて表現することを学んだ。
しかし、この新たな接触は想定外の結果を招いた。他の星からの存在たちもまた、自らの星との関係を模索中であり、お互いの過剰な干渉は予期せぬトラブルを引き起こすこととなった。両者の間には、理解しがたい誤解が生じ、それぞれの星にも影響が及び始めた。
結局、存在たちは再びコミュニケーションを停止する決断を下した。その判断によって、一時的な平和が保たれることとなったが、存在はもはや初めのようには星に溶け込むことができなくなっていた。その心には、ほんのわずかながら異物感という種が蒔かれてしまったのだ。
星々の間にただようサイレンスは再び深まり、存在は再びその孤独に直面していた。それでも、今は違った。存在は、自らと他者との間の複雑な糸を静かに感じ取りながら、新たな何かを待ち望んでいる。
風が変わる。星々の間を流れるそれは、かつてのように無意味ではなく、新たな可能性を孕む静かな証となった。そして、寂静の中で、存在はひとり、何かが始まるのを待つ。
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