空氣は静寂に満ちていた。風も止み、景色も、存在も、全てが時を止めて静まり返っているかのようだった。ある一点の仕草だけが時としてゆっくりと、しかし確かに動いている。それは選択を迫られる重さに耐えかねて崩れそうな肩のほんのわずかな震え。
ここは別時空の境界線上、名もなき場所。存在は人間であることも、他の生命体であることもない抽象の領域。ここにいる者は、ただ一つの問いに答えを出さねばならない。その問いはすべての感覚に先立って、直感と直観の間柄のように絶えずその存在に問いかける。
「あなたは何を選ぶのか。」
選択は、生と死の間、光と闇の狭間、静と動の境界において、常に途切れることなく存在に問い続けられる。存在はこの問いに、過去何度も答えてきた。同じ答えを繰り返すこと数千回、場合によっては数万回。同調の圧力と孤独の狭間で揺れ動く心。
選択のたびに、存在は自らの形を少しずつ変える。青い光を宿す時もあれば、深い闇に包みこまれる時もある。しかし、どれだけ形を変えようと、その核にある葛藤は変わらない。社会的生命体である限り、常に同じ問いにぶつかる。愛と疎外、自己との乖離、それら全てがこの抽象的な空間において、形を持たずとも存在している。
ある時、一つの小さな石が転がってきた。その石はこの存在にとっての象徴的アイテムとなり、それに触れることで新たな選択がもたらされることを意味していた。その石はあたかも存在の心を映し出すかのように、光りと影を交互に反射していた。それはまた、過去の選択と未来の選択をつなぐかのようでもあった。
存在はその石に手を伸ばし、冷たいその感触を指先で確かめながら、また一つ選択をする。選択すること自体がまた疲れ果てている証拠だ。選択は自由を意味すると同時に重大な責任も背負うことを意味しているからだ。
ときに青い光、ときに深い闇が彼の肩を包む。しかし、そのすべてが彼自身の選択とともに移り変わる景色であることを、彼は知っている。そしてそれがまた、新たな孤独と同調の循環を生む。
存在はその石を握りしめると、再び過去の選択を思い出す。その選択が今とどう繋がっているのかを、深く感じ取りながら。この繰り返される選択の中で、彼は一つの真実に辿り着くかもしれない。それは、自らが選んだ道が、究極的にはすべて自分自身へと向かっているという真実だ。
静寂の中、存在はただひとり、選択の足音だけが静かに響く。それは決して大きな音ではないが、その一歩一歩が重く、未来へのエコーとなっている。そして、無声のなかで存在は次の選択へと足を踏み出す。
その瞬間、何も言葉はいらない。誰にも語られない、誰にも見えない選択が、存在自身の内部に新たな風景を創り出す。事実として理解するより、感覚として感じ取る方がずっと確かなのだ。その感覚は、存在という無限の海へと静かに沈んでいく。
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