空は翡翠の陽光が溶け込むように蒼く、吸い込まれそうなほどに心地よい。土はやわらかく、指先を通り抜ける冷たさが、ある命の終わりと次の命の始まりを告げている。木々の間を漂う風は、時に歌い、時に哀しみ、その心を解しては誰かに伝えようとしている。
彼――いや、それは彼でも彼女でもないかもしれないが――は一本の木の下で呟いた。時計の針が一向に動かず、空白の時間だけが流れてゆく。「どれほどの季節が過ぎただろうか」と。
それは自らの存在を省みるために生まれた存在だ。仕事とは、この世界における全ての哀しみと痛みを集め、それを歌に変えること。それはこの世界の住人に与えられた最も神聖な仕事であり、彼らはそれを通じて自らの内なる葛藤を解放する。
しかし、その彼もまた、哀しみを拾うことに疲れを感じていたのだ。もともと彼は、この地を訪れる前は他の空間で別の形をしていた。親とも呼べるものから与えられた使命に従っていただけで、自己の意志でこの場所を選んだわけではなかった。
風が木々の葉を揺らし、彼にささやく。青々と蘇る葉の合間から降りそそぐ日差しは、彼の仕事に対する確信犯的な疑問を照らし出した。「私は何のためにここにいるのか?」
ある日、彼は小さなオルゴールを拾った。それは滑らかな表面と静かな音色を持っていた。ただそれを巻き上げるだけで、美しい旋律が辺りを包み込む。その音楽には、彼の集めた哀れみや悲創など少しも含まれていなかった。それは単に美しいだけの、純粋なものだった。
日々、彼はオルゴールに耳を傾けながら、自らの使命に疑問を投げかけた。彼の存在意義は本当にこれで良いのか?彼は本当にこの哀しみを集める仕事に喜びを感じているのか?オルゴールはただ静かに彼に問いかけ続けた。
そして、彼が再び呟いた。「もはや誰も、私の歌を求めていない」。そう認めた瞬間、彼の中の何かが変わり始めた。彼の周りの世界が、彼の意識の変化を感じ取り変貌を遂げる。
青い空、黄金色に輝く日差し、そして様々な生命が息づく大地。このすべてが彼を包み込むように変わったのだ。彼はこの美しい世界でただ存在することに、新たな意味を見出した。彼自身が創り出した音楽よりも、自然が奏でる音楽のほうが、はるかに深く心を打つことに気づいたのだ。
風が再び木々を通り抜ける。その音は、かつての彼の歌とは違い、澄み渡った響きを持ち合わせている。彼は深く息を吸い込み、そして満足げに息を吐き出した。もう何も言葉にする必要はない。静かな沈黙が、すべてを物語っている。
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