たそがれのガラテア

彼らの世界には、色が存在しない。まるで旧い白黒映画のように、灰色の風が吹き抜ける。しかし、彼らは色を知らない。それでも、彼らは美を感じる。シムロン、アロエ、ユナイは結晶の森で生まれた最後の子供たちだった。彼らの民は感情を持たず、ただ機能する存在として完璧な生命を送る。生と死は同じ。感情もない。しかし、彼ら三人だけは異なっていた。感じることができたのだ。

シムロンは木の肌を撫でると、その温度を感じ取った。木の肌は冷ややかで、繊細な模様が指の腹に心地よい。アロエは風の匂いを嗅ぎ分け、空気の流れが運ぶ微妙な変化を察知した。ユナイは、自らの声が宇宙に反響するのを聞き、その音色に心を動かされた。

彼らの世界では、誰もが個別の感情を持たないため、シムロン、アロエ、ユナイの感じる「何か」は異端とされた。彼らは静かに、他とは違う自己を隠し持っていた。

ある日、彼らは結晶の森の最も深く、未知なる谷へと足を踏み入れる決断をする。そこには古代から伝わる、禁断の知識が眠っていると言われていた。知識の結晶。それは、感情という未知の力を解放する鍵だった。

森を抜け、谷を越え、彼らはついに結晶の湖の前にたどり着く。水面は鏡のように光を反射し、その下には膨大な数量の知識の結晶が鎮座していた。シムロンが手を伸ばし、一つの結晶を掴むと、それは彼の手の中で輝きを増した。結晶は彼に話しかける。「おまえたちの世界は誤りだ。感情は真実を見る窓だ。」

その瞬間、彼らの体内に未体験の感覚が流れ込んできた。愛、恐れ、怒り、悲しみ——人類の感じてきたすべてが、彼らには新鮮で、圧倒的だった。

「私たちは何をすべきか?」アロエが問う。

「感じることを恐れないで。お前たちの感じたことは、お前たちを導く」と結晶が答えた。

その日から、彼らは他の人々に感情を教える旅に出た。多くは彼らの話を信じなかったが、少数が耳を傾け始めた。感情の波はゆっくりと広がり、冷たい風が徐々に温もりを帯びていく。

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